Salesforceを活用し業務の標準化とコスト最適化を実現
リコール社告業務のお客様対応スキルとマインドを伝承

Panasonic
ナショナルFF式石油温風機および石油フラットラジアントヒーターのリコール対応で発足し、最後の1台まで探し出すことを目標とするパナソニック株式会社 FF市場対策本部は、長年使い続けたリコール管理システムのリプレースに踏み切りました。パナソニックISが提案した新システムPANDRAでは、課題だった業務の標準化とコスト削減を実現。今回、そのPANDRAの導入背景や効果などについて詳しく話を伺いました。
導入のポイント
リコールごとに異なる業務フローや画面・操作性をSalesforce Service Cloudで標準化
クラウド環境によってスケールダウンが容易になりシステムコストの最適化が可能に
単なるITシステム中心のデジタル化ではなく、システム更改を通じ業務を変革
課題
  • リコール対象製品毎に業務フローが異なる

  • 業務フローが異なるため都度システム立ち上げが必要

  • 初期ピークに合わせて設計されておりスケールダウンが困難

解決
  • Salesforceによるシステム構築で業務を標準化

  • 標準化した業務フローで人員リソースも最適化

  • リコール終息期に移行した際は容易にスケールダウンが可能

FF市場対策本部は全台数を確認するまで活動していく

――FF市場対策室、市場対策部の部門概要についてお願いします。

森氏 1985年(昭和60年)から1992年(平成4年)製のナショナルFF式石油温風機および石油フラットラジアントヒーターで発生したリコールに対応するため、2006年5月にFF市場対策本部が発足しました。これまでのリコールとは規模も被害状況も異なっていたため、専任のFF市場対策本部が設けられた次第です。このリコールに対して緊急対策時はマスメディアをはじめ、あらゆる媒体を使って告知を行い、延べ20万人の社員を導入して初期対応にあたりました。多数の情報とご協力を得ながら、現在も引き取り回収や給気ホース部の点検修理活動を継続。最後の1台まで探し出す活動を続けてまいりますので、引き続き皆様のご協力をお願い申し上げます。


志水氏 市場対策部は各事業部で対応していたリコールを引き継ぐ部門として設置されました。業務フローとしては、リコールが終息に向かい始めたところで市場対策部が引き継ぎます。現在は十数件のリコールに対応しています。
パナソニック株式会社 FF市場対策本部 本部長 森 泰久 氏
――リプレース前のシステムについてお聞かせください。

志水氏
 FF市場対策本部以前はリコール顧客名簿管理が非常に煩雑でした。未対策製品や顧客情報を顧客名簿から探すとなったらかなりの時間を要します。さらに、リコール製品1台ごとに顧客情報との紐づけ作業、市場点検の進捗管理も必要になりますから、やはりシステムでなければ追いつきません。そこで2006年に構築したのが、リコール管理システムのPREVENT(プリベント)です。

リコールごとに異なるシステムと高止まりのコスト

――長年利用してきたPREVENTの課題をお聞かせください。

志水氏 大きな課題が2つありました。1つ目は事業会社のリコール製品ごとにシステムが異なることです。ベースは同じPREVENTですが、各事業部がリコールごとにPREVENTをフレームにして独自に立ち上げて構築していくため、業務フローはもちろん、画面構成も操作性も異なっていました。リコールごとに業務プロセスが異なるため仕方がない部分はあるのですが、リコールを引き継ぐ我々としては大きな問題です。リコールの数だけシステムを覚える必要があるため、スタッフには非常に大きな負担となっていました。

2つ目はコストの問題です。PREVENTを立ち上げる際は、1日数万台という初期のピークに合わせ、高トランザクションに耐えうるインフラかつ高品質なアプリケーションで構築する必要があります。その後、終息期になって我々が引き継ぐわけですが、このときにはピークに合わせたハイエンドなシステムは過剰です。しかし、点検費/人件費と異なりシステムは簡単にスケールダウンできません。結局、システム維持費は高止まりしたまま長期間運用し続けることになります。この運用コストも含めて市場対策部が引き継いでいますから、以前からシステムの運用コストは問題視していました。
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 DX・顧客接点革新本部 CSセンター 市場対策部 市場対策課 課長 志水 稔 氏

業務の標準化とスケーラビリティを求める

――新システムはどのように検討されたのでしょうか。

志水氏 リコール管理システムに関係する部門に加え、PREVENT構築時にも関わっていただいたパナソニックISに入っていただき、3~4時間の要件定義会議を週に2日、約3カ月かけて行いました。そのなかでさまざまな意見をすり合わせ、新たなシステムにおける業務の標準化を追求しました。お客様の名簿管理、連絡の受付管理、修理における進捗管理などの標準的な業務と、出張修理や商品引取など個別のリコールを想定した業務に分け、既存業務の分析と統廃合を行った上で、あらゆる製品の社告に対応できる業務フローを作成しました。

さらに、運用コストを考慮し、業務に合わせてシステムを柔軟に容量変更できるスケーラビリティも求めました。この要件を満たす基盤として、パナソニックISから提案いただいたのがSalesforce Service Cloud(以下、Salesforce)です。Salesforceなら立ち上げ時の構築が容易で、ベンダーの支援は最小限に留めることが可能。しかも、クラウドでの運用となりますから、ピーク期から終息期に移行した際にシステムをスケールダウンすれば、容易にコストを削減できます。

クラウドは利用者がシステムに合わせる必要があるため、検討に多少の時間が必要でしたが、最終的にSalesforceで決定したのはグローバルシェア率の高さです。Salesforceといえば、全世界で利用されているCRMのソリュ―ションです。世界の名だたる企業が活用しているわけですから、当社も使いこなせるはずと考え、パナソニックISに構築をお願いしました。
リコール社告業務の主要プロセス
――新システムが稼働するまでのプロセスをお聞かせください。

志水氏 PANDRA(PAnasonic New Dynamic Recall-system for All:パンドラ)と名づけられた新しいリコール管理システムは、2022年7月からシステム開発とデータ移行が始まり、現在、ほぼリプレースは完了しています。プロジェクトによってはすでにPANDRAでの運用が始まっており、各事業会社が新たにリコールを実施する場合も今後はすべてPANDRAになります。

システムの統一化と情報共有を実現

――PANDRAへの評価をお願いします。

土田氏・川本氏 コスト削減については間違いなく達成していると思いますが、使い始めて間もないため、定量的効果が分かるまではもう少し時間が必要です。それ以外のところでは以下を評価しています。

<誰にでも使いやすいシステム>
以前のPREVENTは作業が複雑で、例えば「お客様のもとにある製品を回収する」という内容を登録する際に5~6のステップを踏む必要がありました。しかし、PANDRAでは2ステップほどで登録が完了します。このように作業が単純化されていますから、業務が属人化しづらく、共有も可能だと思います。さらに、画面構成や操作性が統一化されています。複数のリコール対応が発生した場合の操作もわかりやすく、リソースの最適化が図れるのではないかと期待しています。

<クラウド化による情報共有とリアルタイム性>
PREVENTのときは、その日の受付集計などのレポートはメールなどを通じて情報共有を図っていました。PANDRAの場合、データが入力されていれば、いつでもどこにいてもリアルタイムでデータを閲覧することが可能。メールを利用する必要はありません。また、どの拠点からもPANDRAにアクセスできますから、拠点ごとに業務を分ける必要もありません。拠点間で業務を共有することも容易になっています。

<基本機能ベースの構築による安心感>
今回のPANDRAは、Salesforceの基本機能をメインに構築しているとパナソニックISから伺っています。その理由は、画面や機能のカスタマイズを多用するとテストだけでも大きな負担になってしまう可能性があるとのこと。継続的かつ安定して利用するという意味では、PANDRAは非常によく考えられたシステムだと感じています。
パナソニック株式会社 FF市場対策本部 企画・渉外管理課 課長 土田 和生 氏

市場対策部門とITが一体となりDXを推進

――今後、PANDRAはどのように展開されていくのでしょうか。

志水氏 現在、PANDRAのユーザー部門が月1回集まる定期ミーティングを行っています。そのなかでよく話しているのは、単なるITシステム中心のデジタル化ではなく、業務の変革を推進していくDX、「Panasonic Transformation(PX)」に即した取り組みが重要だということ。具体的なところは決まっていませんが、リコールに携わる市場対策部門も、PXを大前提に業務の変革ありきでPANDRAを育てていきたいと考えてます。

――パナソニックISへの評価と今後の期待をお願いします。

志水氏 我々は削減できたコストをお客様へ安心・安全をご提供するための費用に使いたいと考えています。それが切なる想いです。また、リコ―ルの完全なる終息は難しく、長期にわたる業務の継続が求められます。FF市場対策本部・市場対策部ともにメンバーの高齢化が課題となっていますが、だからこそ、業務を標準化しスキルを伝承し、マインドを受け継いでいく必要がありました。様々なリコール社告プロジェクトにおける競合する要件を調整し、PANDRAというリコール管理システムで応えてくれたパナソニックISには大変感謝しています。

パナソニックISからは、社内で蓄積した技術力やコンサルティング力を一般市場向けビジネスにも広げていきたいと伺っています。我々としても、PANDRAで得た知見は、余すことなく活用していただきたい。そして、一般市場で得た知見を我々にフィードバックしていただけることを願っています。引き続きご支援のほど、よろしくお願いします。
パナソニック株式会社 FF市場対策本部 企画・渉外管理課 川本 美抄 氏

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取材︓2023年6月8日 
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