健診予約の登録や診療記録プリセットなど、人に負担のかかる業務を自動化
――これまで作成されたロボットを教えていただけますか。
山本氏 現在は、ロボオペレータで新規作成したロボットと、最初のRPAツールで作成した後、ロボオペレータに切り替えたロボットの2通りが稼働しています。具体的には以下の通りです。
社会福祉法人恩賜財団 済生会熊本病院 医療情報部 医療情報システム室 主任 山本 和弘 氏
<外出先の医師に手術予定表をメール>
当院のデータベースのなかには週単位の手術予定表があり、院内にいる場合はいつでも参照できます。しかし、外出先の場合、当直の医師に連絡をして確認するか、当院に来て手術予定表を確認するしかありませんでした。
「外出先からでも手軽に手術予定表を参照したい」との声が医師から寄せられていたため、手術予定表の画面をキャプチャして医師グループのアドレスにメール送信するロボットを作成しました。
<予防医療センターにおける健診予約の登録>
予防医療センターでは、企業などからの健診予約をシステムに登録する作業があります。年間にすると何万件というボリュームがあるため、職員の手作業だけでは負担が大き過ぎました。そこで、健診予約をシステムに登録する作業をロボットに置き換え。これにより、職員の負担を軽減するとともに、働き方改革にも貢献することができました。
<職員の体調分析表を所属長にメール送信>
コロナ禍においては、毎日、職員自身で体調を入力していました。そのデータは院内に公開されますが、各部門の所属長にはそのデータを集計・分析してメール送信する、という作業があります。この作業は、インターネットへつないでファイルをダウンロードするという手間がかかるもので、毎日、専任の職員が行っていました。作業の一部をロボットで行うようにしたため、専任である必要がなくなり、作業効率は大きく高まりました。
<リハビリテーション科の新規台帳作成>
リハビリテーション科では、患者様の記録情報を部門システムに入力する際、新規に台帳を起こします。この部分をロボットで自動化しました。
<リハビリテーション科の診療記録プリセット>
同じくリハビリテーション科では診療記録に関わるところの一部、基本的な疾患名やオーダーを出した医師名などの入力を自動化しました。法的な制約のため、最終的な確定は責任者が行わなければなりませんが、入力のプリセットと一時保存を自動化できたため、かなり作業時間を短縮することができました。
1,829名分の予約入力業務で46時間を削減。RPA活用には現場の理解と協力が不可欠
――RPA導入による定量的効果をお聞かせください。
小妻氏 まだまだ稼働しているロボットはわずかですが、図のような定量的効果を得ることができました。
ロボオペレータ導入による効果
小妻氏 RPAを導入して分かったことが2つあります。ひとつは、システム的には簡単でも、毎日、確実に誰がやらなければならない作業は、現場の負担になっているということです。ここにロボットを投入すれば、効率化が図れることを実感しました。
もうひとつは、すべて自動化する必要はないということ。例えばリハビリテーション科の診療記録の場合、最終的に責任者が入力を確定するということさえ遵守すれば、その前段階のプリセットはロボットに任せることができます。RPAにはまだまだ多くの活用方法があると確信しました。
――RPA導入の啓発活動はどのようにして行っているのでしょうか。
小妻氏 そもそも医療業界は個人情報の取り扱いがセンシティブです。とくに診療記録に関わるところは、電子記録の3要件「真正性」「見読性」「保存性」を担保し、確実に記録として残すことが求められます。ですから、リハビリテーション科の診療記録もプリセットまでとしています。
とはいえ、院内にはいくつもの部門システムが稼働しており、効率化できるところは数多くあると思っています。現場でITリテラシーが高く、意識改革できる素養を持った方を見つけ、そういった方達に先導を切ってもらいながら、新しい発想でRPAを展開しています。今後も病院のDXを前向きに捉えてくれる方々とともに、少しずつRPAの輪を広げていければと考えています。