飼育データの記録に多くの時間と手間を要する
――飼育管理アプリを導入した背景と課題をお聞かせください。
柿崎氏 犬や猫などのコンパニオンアニマルとは違い、動物園・水族館で飼育されている野生生物は圧倒的にデータが少ないという現状があります。例えば、人気者のマゼランペンギンは当館に56羽いますが、国内総数は400羽弱にすぎず、飼育における情報がまだまだ少ない状況です。そこで、個体の特性を見極めつつ、日々の飼育データから平均値を割り出し健康増強に向けた指標を作っていく必要があります。当館では開業以来、飼育環境や個体の健康状態を日々データ化していますが、多くの時間と手間を要する飼育データの記録の効率化が課題でした。
オリックス水族館株式会社 すみだ水族館 展示飼育チーム長 柿崎 智広 氏
柿崎氏 まず、データ記録のフローには「メモ」「清書」「管理記録入力」の3つのステップがあります。具体的には、餌料の種類や給餌量を紙に「メモ」し、それをデータとして残すために別紙へ「清書」、さらにそれをExcelに入力するというフローです。当然、食事だけでなく、多岐にわたる健康状態に関するさまざまな情報を一個体ごと正確にデータ化しなければなりません。しかも、海獣類の飼育チームはペンギンのほか、ウミガメ2頭、オットセイ5頭も担当しています。飼育チーム十数名が協力しながらすべての個体のデータ化をするには、どんなに頑張っても毎日平均210分はかかります。これは年間で約1,200時間の計算です。
また、日報への入力のため、PCが設置されている事務室まで足を運ぶのも、飼育現場での作業がメインの飼育スタッフにとっては大きな負担でした。さらに、「清書」した紙の管理・保管スペースという問題もありました。開業以来、「清書」の紙はすべてファイリングし保管していますから、すでに相当なボリュームになっています。これ以上増えるのは避けたいというのが正直なところでした。