大規模なサーバ構築経験を感じさせる発想力で要件をクリア
――リプレースにあたっての要件、要件に対するパナソニックISの提案、そして効果などをお聞かせください。
篠原氏 細かいところを入れると数多くありますが、今回は以下3つの必須要件と効果を挙げさせていただきます。
<要件1.高速化>
課題:電子カルテシステムの動作に遅延が発生
当院は午前中に外来を診察し、午後に入院されている患者様を診察するのが基本的な流れになっていますが、800~1,000人ほどの外来があるため、いつも午前中に電子カルテシステムへのアクセスが集中してしまいます。データベースへのアクセスが増加し、書き込みの遅延が発生すると、患者様をお待たせすることにもなってしまいます。そこで今回は、電子カルテシステムの高速化を求めました。
提案と効果:SSD導入などで遅延解消
機器が新しくなったことに加え、SSDだけで構成するオールフラッシュのストレージが大きなポイントになりました。これにより、以前のような遅延はなくなりました。業務への支障がなくなり、外来の会計もスムーズに行えています。今回はネットワークを変えていないため、ネットワークのボトルネックは残っていますが、サーバのリプレースだけで速度向上を実現できたことには、大きな満足感があります。
<要件2.拡張性>
課題:システムを拡張する度にコストが増加
電子カルテシステムと連携する部門システムや医療機器は、医療の最適化や医療機器の進化に合わせ、リプレース後も入れ替えや追加を随時行う必要があります。しかし、これまで仮想基盤は構築していたものの、リソースに余裕がないため、システムの追加ごとに実機を購入。かなり費用がかさんでいました。そこで今回は、コスト負担を圧縮できるような高い拡張性をお願いしました。
提案と効果:HCIで低コストと拡張性を担保
HCI(Hyper-Converged Infrastructure)で仮想環境を構築していただきました。シンプルな構成で拡張性にも優れていますから、今後のシステム拡張に柔軟に対応することができると期待しています。しかも、今回はすべてのサーバを一新しましたから、更新時期がすべて同じになりました。これによって、予算を確保しやすくなり、運用・保守の面も大きく向上しました。
<要件3.バックアップ>
課題:ランサムウェア対策のバックアップシステムが不十分
継続的な医療提供のため、我々はあらゆる医療データを守らなければなりません。そこで当院は、BCP対策の観点から通常のバックアップと月1回の外部記憶装置バックアップによる遠隔地保管を行ってきました。しかし、近年は大規模な自然災害やサイバーテロの脅威が多発している状況。リプレースの打ち合わせを行っている最中にも、他院でランサムウェアの被害が発生していました。当院としては、これまで以上にバックアップ体制を強化する必要があると考えました。
提案と効果: Veeamでバックアップシステムを構築
グローバルシェアの高いバックアップソリューションのVeeamを活用し、強固なバックアップのシステムを構築していただきました。サブホストにVeeamでバックアップする仕組みで、初回時フルバックアップ以降は、日々の増分をバックアップしていきます。Veeamの特徴は強固なランサムウェア対策の機能を有していること。単にバックアップするだけでなく、書き換え不能かつ暗号化した状態でデータを格納。これにより、ランサムウェア対策としては高度な仕組みを構築できたと考えています。ちなみに、導入したVeeamはインスタンス(バックアップ対象)単位で課金されるユニバーサルライセンスのため、低コストと拡張性も担保されています。
もちろん、これまで通り、BCP対策として月1回の外部記憶装置バックアップによる遠隔地保管も継続。さらに、電子カルテシステム側のアプリケーションバックアップもあるため、世代管理も可能な3重のバックアップシステムを構築することができました。
このバックアップシステムで特筆したいのは、バックアップには25Gbpsの帯域が設けられているところです。おかげで、日中にリアルタイムでのバックアップが必要になった場合でも、業務への影響を気にすることなくバックアップできるようになりました。しかも、外部記憶装置へのバックアップはサブホストから行っているため、データベースへのアクセスを抑え、業務への影響は最小限となっています。こうした構築方法は初めて見ましたが、大規模なサーバ構築経験があるパナソニックISでないと出てこない発想だと非常に勉強になりました。
システム構成図